Bフレッツの仕組み

 多くの方がご存知のようにBフレッツにはビジネスタイプからマンションタイプまで6タイプあり,ファミリータイプ以外は「最大100Mbps」というスペックを提示しています。しかし,価格はビジネスタイプの40,000円からファミリー100タイプの4,300円,マンションタイプの3,000円までと大きな差があります。この差はどういうところから出てくるのでしょうか。その「謎」を調べてみました。ただし,NTTから公開されていない部分については推測で書かざるを得ないため,間違っていないという保証はできませんので,その点あらかじめご了承ください。

■加入者光ファイバの仕組み

 現在,加入者光ファイバを実現する技術として「LAN系」と「シェアドアクセス」という2種類の技術が使われていますが,その仕組みを簡単に紹介します。

(1) LAN系

 LAN(Local Area Nerwork)といえばオフィスではほぼ常識になっていますし,いわゆる「家庭内LAN」を組んでいる方も多いかもしれません。LAN系とは,それらの場面で使われているLAN(イーサネット)の技術をそのまま光ファイバに乗せたものです。

 具体的にはLANケーブルの代わりに光ファイバを使い,回線の末端に「メディアコンバータ」という光信号と電気信号を相互変換する装置を取り付けます。回線を分岐するときも私たちがLANを組むとき使うスイッチングハブ(正しくはスイッチという)を使います。

 すでに普及した技術がベースで仕組みが単純なために機器コストを大幅に下げることができることがメリットです。他方,もともとがLANというフロアで使う技術なので障害耐性が低いという問題点を抱えています。また,仕組みが単純なだけに帯域を制御する仕組みもなく,分岐すれば回線速度が安定しないこともあります。

(2) シェアドアクセス

 日本ではNTTがかなり早くから加入者光ファイバ実現の計画を掲げ,必要な技術を開発してきました。その一つがシェアドアクセスで,収容設備からの光ファイバを最大32ユーザーで共有する仕組みです。皆が公平に利用できるようにと最低帯域保障の仕組みを持っています。

 このシェアドアクセス上で加入者宅に実際に光ファイバを引き込む方式がPON(Passive Optical Network)で,ATM-PONが,ITU-TにおいてG983.1およびG983.2として1999年6月に標準化されました。ATM-PONは現状では下り155Mbpsまたは622Mbps/上り155Mbpsの回線容量を持っています(1.25Gbpsがリリース予定として控えています)。また,NTTが古くから保有する,ATM-PONの信号に加えてCATVなどの映像信号を多重できるB-PON(Broadband Passive Optical Network)がG983.3として2001年12月にITU-Tによって標準化されました。ATM-PONでは上り方向1.31μm,下り方向1.49μmの波長を利用してデータ通信を行い,またB-PONではさらに1.55μm帯で映像信号をサ−ビスするというように波長多重技術が利用されています。加入者回線の末端に取り付けられるのはメディアコンバータではなくONU(Optical Network Unit)です。

 Passiveとは受動的という意味であるが,PONシステムにおいては光信号の分岐にスプリッタを使い光学的に(つまり電気を使わずに)分岐する。他方,電気を用いて分岐させる方法をADS(Active Double Star)という。

 LAN系技術よりも通信速度が安定し付加機能も豊富につけられる反面,機器コストはLAN系よりも高価であるというのが現状です。もっとも,ATMの代わりにLAN(イーサネット)ベースのE-PON(Ethernet PON)が現在標準化の過程にあり,2003年9月頃に最終決定される見通しです。

 ちなみに,シェアドアクセスのメリットとして,光ファイバの本数を抑えてコストを下げる他に,局側機器の設置スペースの圧縮にも役立ち,NTT以外の電力系NCCによるFTTHサービスにもE-PONが一部採用されています(関西電力のeoホームファイバー,中部電力のコミュファetc.)。

■LAN系Bフレッツ

 現状のBフレッツにおいて(1)のLAN系技術に依存しているのがビジネスタイプ・ベーシックタイプ・マンションタイプです。ビジネスタイプおよびベーシックタイプではユーザー宅とNTT収容ビルとの間を1対1の光ファイバで結び,ユーザー宅におかれたメディアコンバータによって100Base-TXの電気信号に変換されたのちマシンのLANカードまたはブロードバンドルーターにつながります。ちなみにベーシックタイプではNTTビル側メディアコンバータから先の回線を複数ユーザーで共有して地域IP網に入りますが,ビジネスタイプでは加入者宅〜地域IP網の間で1本の回線を専有できます。

 他方,マンションタイプではやはり100Base-TXの電気信号に変換されたあとPNAやVDSL,Ethernetといった機器を使い,イーサネットケーブルやメタルラインに載せられて各部屋に届きます。

 実際のサービスでは1人につき光ファイバ1本と局側のメディアコンバータ,地域IP網の費用や営業費などが加算されてエンドユーザー向けの価格が決まってきます。

■シェアドアクセスのBフレッツ〜ファミリー系タイプ

 残るニューファミリータイプ・ファミリー100タイプはシェアドアクセスによっていますが,ネットワーク構成はかなり複雑です。

 NTT西日本のファミリー100タイプは下り622Mbps,上り155MbpsのB-PON(Broadband Passive optical Network)を採用しています。電柱上で8分岐された光ファイバは収容ビルに入り,4本をまとめて局内スプリッタに入ります。局内スプリッタとOLTは1対1でつながり,OLTから地域IP網に入ります。したがって下りに関しては622Mbpsの帯域を32分割していることになり,全員が同時に接続した場合に19.4(622÷32)Mbpsの速度が出るわけです(実際は全員が同時に接続することはほとんどなく,もっと広い帯域が与えられるはずです)。OLTで100Base-TXの電気信号に変換されて地域IP網を通り(だからといってバックボーンが100Mbpsということにはならない),プロバイダと接続します。少なくとも,収容ビルまでの間で回線を共有していることがボトルネックになるとは考えられません。

参考:NTT西日本発表資料 2002年5月14日

 他方,NTT東日本のニューファミリータイプでは市販のEPON(Ethernet Passive Optical Network)を採用しています。現在標準化の過程にあり,2003年3月の最終ドラフト化(同年9月の標準化)に向けて進行中です。ONUのインターフェイスが100Base-TXで,今のところは上り下りとも最大1Gbpsの帯域を,電柱で8分岐したものを4本まとめて局内スプリッタに収容し,OLTを経由して地域IP網に入ります(あくまでも現在の仕様として1Gbpsという帯域があるだけで,実際のサービスで使われている機器のメーカなどが公表されていませんので,実際にどの程度の帯域があるかまでは分かりません。)。【2003年3月22日追記】NTT東日本は4月1日からニューファミリータイプを4,500円に値下げしますが,それに当たって分岐の構成をNTT西日本と同じ局内4分岐,局外8分岐に変更しています。

参考:ぷらら掲示板 Bフレッツサービス掲示板
NTT東日本発表資料 2003年1月27日
「ブロードバンド時代に向けた光アクセス技術」(電子情報通信学会2002年総合大会)

 ちなみに,ファミリー100タイプが登場したときに「100Mbpsを数人で共有する」といった言説が見られましたが,すでに述べたような理由で誤りです(もっとも,こんなことは誰も言っていないはずですが…)

 なお,従来のファミリータイプはNTTが独自に開発したSTM-PONという方式を採用しています。これは10Mbpsの帯域を複数ユーザで共有する仕組みです。

■Bフレッツの将来〜1本の光ファイバでテレビ&電話&ネット?

 ところで,ファミリー100タイプではB-PONを使いますがニューファミリータイプではE-PONを使います。現時点では100MbpsのIPアクセスという点で同じサービスです。ただし,B-PONはIPアクセス以外の信号を多重するために開発された技術であることから,現状のフレッツサービスに加えてCS放送のサービスも提供されるかもしれません。なお,日経新聞1月1日報道によれば,この波長多重技術を用いたインターネットアクセスサービスと番組配信サービスを今秋から商用化されるようです。

参考:「NTT西日本がFTTHサービスを半額に 9月から月5500円前後で開始」2002年4月24日 日経コミュニケーション
「NTTが考える“次世代型”Bフレッツとは?」2001年11月19日 ZDNet Broadband
NTT持株会社発表資料 2002年2月25日

 もっとも,有線ブロードや電力計事業者が参入して競争状態にある光ファイバ市場ですからコストの問題を無視することはできません。Bフレッツ・ファミリー系3タイプ以外はすべてLAN系技術を利用して価格を安価に抑えています。LAN系よりも質的な面で勝るシェアドアクセスですが,いかに機器コストを下げられるかという側面もあります。その一方で,価格競争だけではビジネスモデルとして早いうちに限界がきてしまいますので,各社とも「付加サービス」の開発に重点を移すことは想像に難くないでしょう。そのときに帯域の公平な利用,波長多重というシェアドアクセスの特徴をどう生かすかがポイントになってくるのではないでしょうか。

■まとめ〜価格と見かけのみにとらわれない選択を

 ここまで技術的な側面を中心にBフレッツの詳しい中身を見てきましたが,「○○Mbpsで○○円」という単純なスペック比較よりもはるかに複雑な事情があります。業者によっては転送容量制限を設けているところもあります(たとえば,eoホームファイバーでは当月の転送料が150GBを超えると帯域を64kbpsに制限されます。もっとも,約款にしか書かないというやり方もどうかと思います)。単純な数字比べに終わらず,サービス内容までしっかり調べて選んでいく姿勢がユーザーにも必要だと思います。

 それにしてもNTTはシェアドアクセスについてどうしてあんな誤解を招きやすい発表をしたのでしょうか? あのおかげで他社のサービスがよく見えてしまったのは私だけではないはずです。

全般的な参考文献: 「Bフレッツ(B-flets)に使われているATM-PONやB-PONについて」(ちゃんばばメタサーチエンジンのサポート掲示板)
「アクセス系光伝送モジュールの開発」(沖電子「沖テクニカルレビュー190号」2002年4月)
「Connecting Homes with Fibre Optics」August 2001(Emtelle Newsdesk)
「光アクセスガイド FTTHガイド」FTTx Information内)

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